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2021.11.24

アーツアンドクラフツ15周年記念企画 / デザイナーインタビュー

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「FUNCTIONAL BEAUTY(用の美)」をテーマに、現代的な感性と職人的な技の融合を目指したバッグ&小物ブランドARTS&CRAFTS。ブランドを立ち上げたのが2006年。今年でちょうど15周年を迎えました。

 

ブランド名は19世紀、大量生産に疑問を投げかけ、手仕事の大切さを提唱した英国人のウィリアム・モリスの「ARTS&CRAFTS MOVEMENT」に因み、シンプルで長年愛され、なおかつ洗練されたハンドクラフトの定番品を中心にしたコレクションです。

 

今回はARTS&CRAFTSのデザイナー、藤本孝夫からブランドの成り立ち、15周年記念のバッグ、モノづくりに対する“思い”を聞きました。

 


-ARTS&CRAFTSを始めるきっかけは?-

藤本:会社を退職した後、とあるセレクトショップからバッグや革小物の注文をいただき、いわゆるOEM製品のデザインを約1年やりました。同時に最初に務めた会社からもバッグのデザインを頼まれて働いていました。でも頼まれたものを作っているだけではどうしても限界がある。自分でブランドをやらなければと考え、2006年にARTS&CRAFTSをスタートさせました。

 

最初に作ったのがAGING CANVAS(エイジングキャンバス)と呼ばれる帆布の素材を使ったバッグ。それにELBAMATT(エルバマット)と呼ばれるヴァケッタレザーを使った革小物を出しました。最初に扱ってくれたのがBEAMS PLUSさんでした。

 


-素材にAGING CANVASとELBAMATTを選んだ理由は?-

藤本:AGING CANVASという素材は昔から知っていて好きな素材でした。それで自分でブランドをやるならばこのキャンバス=帆布を使いたいと思っていたのです。

 

ブランドをスタートした2006年というと、まだ(ファッションは) “アメカジ”の名残がありました。ちょうど、CORDOVAN(コードヴァン)という革を使うALDENという靴が注目された時期です。そこで、CORDOVANと同じHORWEEN社のCHROMEXCEL(クロムエクセル)という革と、AGING CANVASを組み合わせたバッグを作ろうと考えたわけです。

 

CHROMEXCELは、約100年前に開発された製法を使って鞣された革で、水に強く、底材やハンドルに適していました。AGING CANVASは、名前の通り、経年変化して濃くなり、この革との相性もいい。

 

革小物に採用したヴァケッタレザーという革はイタリア・トスカーナ地方ではいろいろなタンナーが作っていますが、その中から(1946年創業の)TEMPESTI(テンペスティ)という会社が作るELBAMATTという革を選びました。この革も9世紀初頭からトスカーナ地方に伝わる伝統的な皮革製造法で作り続けられた革。いずれの素材もブランド立ち上げにふさわしい歴史と職人技を持った素材と考え、選んだわけです。

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-15周年記念の15th KUDU FLAT SHOULDERについてお聞かせください-

藤本:このKUDU(クードゥー)という革も僕の大好きな素材です。アフリカのサバンナに広く生息する野生種の動物で、「クードゥー」は現地語で、英語名は「アンテロープ」。実はこのクードゥーはサバンナに増え過ぎて困って、間引いているそうです。それで我々でも使えるようになったのです。その原皮を使って、1904年創業の英国の老舗タンナーCHARLES F STED社が鞣したダブルフェイス=両面づかいが出来る素晴らしい革です。モチモチした質感が好きなんです。

 

15周年のバッグを作るにあたって、このKUDUを使って、MEDICINE BAG(メディスンバッグ)を作ってはどうだろうかと考えました。その昔、ネイティブアメリカンの各部族にはメディスンマンと呼ばれる立場の人がいました。彼らは病気の治療をしたり、儀式のセレモニーを務めたりしていたのですが、その彼らが薬草入れ用に腰からぶら下げていたものがMEDICINE BAGのルーツです。

 

その雰囲気を生かしながら、よりシンプルにショルダータイプに仕上げました。各所の縫製は手縫いで、フラップを留めるコンチョボタンが925シルバー製。シルバー職人さんにいちから作ってもらいました。鳩の足跡のピースマークの刻印を入れています。コンチョ自体も普通は1mm以下の厚みのものを使いますが、今回は2mmのプレートから打ち出してもらいました。裏で鹿革の紐を使って留めるという本格派です。

 

サイズはSとLがあります。色は黒とベージュの2色。このバッグがちょうど入る15周年のロゴが入ったショルダーバッグに入れて販売します。

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-とても面白い革とデザインですが、こうしたデザインは何から発想されますか?-

藤本:収集癖があるので、たくさんバッグや革小物を持っています。集めたバッグ類を時折、掘り返してみて、ああぁ、こんなのが今の気分かな、と思い、デザインすることもありますが、発想を得るのはさまざまなモノやコトから。

 

サンプルの段階から、自分で徹底して使い、微調整して仕上げていきます。最近はコロナ禍でそうそう行くわけにはいかないのですが、昔は毎回、サンプルを依頼するたびに職人さんのところに出掛けていました。(現場で)縫い方を見たり、職人さんの話から改良を加えたり…。モノ作りの現場を見ると勉強になります。革の厚みもコンマ何ミリの世界ですからね。

 

今回の15周年のバッグも、革の漉き加減を工夫して縫っています。(デザインが)シンプルな分、そういう細部が大事なんだと思っています。

 


-他のブランドで、これはバッグ&レザーグッズの名品だと思われるものはありますか?-

藤本:それこそ、ずっと長く続くモノがそれに当たると思います。例えばL.L.BEANのBOAT and TOTE BAGとか、HERMESのバッグとか。ファッションではなく、機能性を重視したデザイン。そういうバッグが僕の理想です。

 

L.L.BEANのTOTEは、もともとは氷を運ぶためのバッグでした。いまでこそファッションになっていますが、機能に基づいたものだから、廃れることも古びることもない。HERMESのKELLY BAGもそう。歴史があって、使われる理由があって、長く続いている。僕のバッグもそうあって欲しいですね。

 


-今後のARTS&CRAFTSの製品の方向性や将来についてお聞かせください-

藤本:毎回新しいデザインを作るのはやはり難しいことだと思います。だから少しずつでも(今、展開している製品の)アップデートをしながら、10年、20年続く形=デザインにしていきたいと思っています。

 

さらに特別な用途にあったものを増やしていければと思っています。例えば、プロとしてこういうモノが欲しいという要望や声があれば、それを僕がカタチにし、商品化していく。そんなことが出来たら素晴らしいのではと考えています。

 

 

デザイナー 藤本 孝夫
1965年、長崎県佐世保で生まれる。佐世保は基地の町、幼少から放出品などの軍モノやジーンズに接してファッションに興味を持った。高校まで佐世保で育ち、その後、上京。小さい頃から絵を描くことが好きだったこともあり、桑沢デザイン研究所でデザインなどを学んだ後、ファッションメーカーに就職。そこでバッグや革小物のデザインから生産まで知識を学ぶ。2006年にevergreen worksを設立。現在はARTS&CRAFTSとSTANDARD SUPPLYのデザインを担当。

 

ライター 小暮 昌弘